2023年5月7日の説教要約 「隠れておられる神」

2023年5月7日の説教要約

         「隠れておられる神」     中道由子牧師

 

《「早速スサにいるすべてのユダヤ人を集め、私のために三日、三晩断食し、飲食を一切断ってください。このようにしてから、定めに反することではありますが、私は王のもとに参ります。このために死ななければならないのでしたら、死ぬ覚悟でおります。」》        

                              (エステル記4章)

1、夫婦の争い

70年の捕囚生活の後、イスラエルの民はバビロンから解放されます。

紀元前538年にバビロンがペルシャ帝国に滅ぼされたのです。

でも、故郷に帰らず、ペルシャやバビロンに残った人々もたくさんおりました。

そこで生まれ育った人は、イスラエル王国エルサレムのことも知りません。

 ペルシャ帝国は富と力を誇るクロスクセス王の時代で、スサという都で起こった事件でした。王様は毎日豪勢な宴会を開いていました。また、ワシュティ王妃も別の広間で女たちのために宴会を開いていました。

 クセルクセス王はお酒によって上機嫌になって、自分の宴会に王妃に冠をかぶってくるように命令しました。ワシュティの美しさを皆に見せびらかすためでした。

王妃ワシュティがそのような屈辱的な命令を断ったものですから、カンカンに怒った王は頼りにしている大臣たちの忠告を聞きいれて、王妃を退位させてしまいました。

でも、お酒が覚めると王様は寂しくなって後悔したのでしょう。

今で言うなら、普通の夫婦喧嘩でした。でも彼らは王と王妃であったから、政治的なことも絡んできて、とことんまでエスカレートしてしまったのです。

妻は王妃の地位を失い、夫は自慢であった美貌を誇る妻を失った、酔いがさめてから「馬鹿なことをした」と後悔してノイローゼ気味になってしまいました。

というところから、今回の主役であるエステルが登場します。

 

2、スサの星

 代わりの王妃を決めるために役人が国中から美しい娘たちを集めたのです。

少女エステルは幼いころ両親を亡くして、いとこのモルデカイに育てられました。

彼らはスサに残っていたユダヤ民族でした。モルデカイはお城の門番をしていましたが、エステルを王妃の公募に連れて行ったのです。

ただ「ユダヤ人であることは口外しないように。この国にはユダヤ人を憎んでいる者もいるから。」と口止めをしてありました。

 エステルは器量が良く、性格が良かった。でも、それだけではない、神様の大きな御手が働いていました。エステル記には神という言葉がほとんど出てきません。

でもクロスクセス王とワシュティ王妃の夫婦と喧嘩がなければ、エステルが王妃になることもなかったのです、偶然でしょうか?この背後に神様がおられます。

この物語、事件全体の流れのなかでの「真の主役」は、実は主なる神でありました。

神は、このドラマの中に一度も姿を現さない「陰の主役」なのです。

 「隠す」という言葉の原語は「サーサル」というのですが、ヘブル語は日本語より複雑です。この動詞の未完了態一人称単数は「エッサーテール」となり、これの母音なしで記すと、「STR」エステルと同じ綴りになるというわけです。

この物語の中に働いている神を隠して書いているのです。

エステル」という名前はペルシャ語で「星」を意味します。エステルのヘブライ語名「ハダッサ」(「エステル記」2章7節)は「ミルトス(銀梅花)」という意味です。ハダッサと言うユダヤ人の中の麗しい花のような少女が、ペルシャ帝国の王妃と言う星になりました。しかし、彼女が本当に輝く星として役目を果たすのは、4章以降のユダヤ人虐殺からの救出でした。

ユダヤ人のハダッサという娘がペルシャ帝国の王妃なることは、彼女自身の人生を大きく変え、ユダヤ人の救いの歴史に大きく関与することになっていきます。

私たちが通る人生の中でも、隠れておられる神はご自身の御計画を持っておられます。

そして、あの時あの事が起こらなければ、自分はこんな立場に立つことはなかったと思うことがきっと皆さんにもあると思うのです。

 

3、決断の時

その当時王様はハマンと言う大臣を首相にしました。このハマンが曲者でした。

ハマンは自分にお辞儀をしないモルデカイを憎んでいました。

モルデカイはユダヤ人ですから、真の神以外お辞儀しません。

怒ったハマンはモルデカイだけでなく、ユダヤ人全部に復讐の計画を王に持ち掛けます。

その命令がスサ中に発布されました。ユダヤ人たちは騒然となりました。

モルデカイは苦しんで、悩んだ末、エステルに知らせます。「王妃ならできるかもしれない。この命令書の写しを見せて、王に会ってユダヤ人たちの命乞いをするように伝えてくれ。」でもエステルは30日の間王様からお召しを受けていなかったのです。

呼ばれないのに王の元へ行った者は死刑になるとペルシャの法に定められているのです。

そんなエステルにモルデカイは厳しい言葉を送ります。

「他のユダヤ人はどうであれ、自分は王宮にいて無事だと考えていてはいけない。この時にあたってあなたが口を閉ざしているなら、ユダヤ人の解放と救済は他の所から起こり、あなた自身と父の家は滅ぼされるにちがいない。この時のためにこそ、あなたは王妃の位にまで達したのではないか。」

今までユダヤ人であることを隠していたけれど、もうそれは赦されない、いまこそ立ち上がる時だ。

命を懸けて同胞の救いのために身を挺するエステルの姿の中に、死ぬはずのない神が、人となられ、私たちの罪のためにご自身を犠牲として死んでくださった、イエス・キリストの十字架の出来事を思わずにはいられません。