2023年8月27日の説教要約
「世界中におられる神」 中道善次牧師
≪使徒言行録 7章1~8節≫
使徒言行録7章は、最初に選ばれた執事の一人であるステファノの説教が記されています。
横浜教会名誉牧師の藤巻先生によると、ステファノの説教は使徒言行録の宣教の分岐点となるだけでなく、キリスト教会の歩む道の大きな転換点となっているのであります。
ステファノの説教が、福音をユダヤ人という狭い枠から解放ち、世界に広げたのです。言葉を換えると、キリスト教が世界宗教となって行く大きなきっかけがステファノの説教だったのです。
1、離散のユダヤ人
「離散のユダヤ人」という言葉があります。 英語では、ディアスポラと言います。Diaspora
この言葉は、ユダヤ人がバビロンに連れてゆかれたバビロン捕囚時から言われるようになった言葉であります。
使徒言行録6章1節には、「ギリシア語を話すユダヤ人」という言葉が出てきます。
ギリシア語を話すユダヤ人とは、離散のユダヤ人を指しております。
外国に住んでいたユダヤ人でしたが、エルサレムに戻って来た人々がおり、そこで生活をしていたのです。
その背景となることを少し語らせていただきます。
バビロンに連れてゆかれたユダヤ人たちは、紀元前537/6年、キュロスの命令により、祖国ユダヤに帰ります。
これと関連することとなりますが、ユダヤ人という言葉は、バビロンから帰って来た人々を指す言葉として生まれました。バビロンに連れてゆかれたのは、ユダに属する人々が多かったからであります。
ペルシャ王キュロスの命令が出ましたが、バビロンに連れてゆかれたすべてのユダの人々が、祖国エルサレムに戻って来たのではありません。
そのまま中近東にとどまった人々が多くいました。支配国の名前が変わってペルシャとなります。聖書の中に出てくる、エステルはペルシャの王妃になりました。ネヘミヤもまた、ペルシャ王に仕える献酌官という高い地位におりました。ダニエルもペルシャのキュロスの時代まで政治家として活躍いたしました。
バビロン捕囚を通して、ユダヤ人が世界中に離散するようになりました。
離散のユダヤ人たちは、支配国が変わっても、聖書を大切にし、唯一の神を信じ続けました。
彼らの多くは、ヘブライ語より、支配国の言葉のほうが良く喋ることができるようになります。それがギリシア語でした。そこで彼らは、旧約聖書をヘブライ語からギリシア語に訳しました。これを70人訳聖書と言います。
今日学びますステファノも離散のユダヤ人、ディアスポラでありました。
ディアスポラという言葉から、私たちが聞き取りたいメッセージがあります。
それはディアスポラ伝道ということであります。
ディアスポラ伝道の一つは海外に住む日本人に対する伝道であります。
もう一つは、世界中の人々が日本に来て仕事をし、勉強をし、生活をしています。日本にいる彼らに対する伝道であります。
2、セカンドクラスの信仰者はいない
使徒6:1では、ギリシア語を話すユダヤ人が日々の配給のことで軽んじられていると苦情が出たとあります。
それは忙しかった、うっかりしていたというだけではないのです。
残念なことですが、差別があったのです。そこには民族的なプライド、文化的なプライドがあったのです。
彼らは、ギリシア語を話すユダヤ人を、セカンドクラスとしてみていたのです。
日本という島国の中に住む私たちの中にもその要素があるのです。
異なるものを受け入れようとしない。それがよそ者にたいする態度であります。
現代のように、「国際人」という認識は当時のユダヤ人にはありませんでした。ヘブライ語を話せるか、ギリシア語を話すのか。狭い枠の中でしか物事を見ることが出来なかったのです。
しかしそのようなことは、民族や文化や言語のことだけではないのです。
私たちも気を付けなければならないのです。
教団、教派の枠を超えて、民族、言語、文化の枠を超えて、インターナショナルな教会でありたい。私たちでありたいのです。
3、神は世界の神
今日は使徒言行録7章のステファノの説教からです。ステファノは離散のユダヤ人だったのです。ギリシア語を話すユダヤ人だったのです。そしてエルサレム中心主義の人々からは、お前はセカンドクラスだと見下げられていたのです。
それに対してステファノは、私たちが信じる神は世界の神なのだ。狭いユダヤの中に閉じ込められるようなお方ではない。
そしてそのことを証しするために、旧約聖書でユダヤ人が尊敬する人物を取り上げて語るのです。
その一人が信仰の父であり、ユダヤ民族の父であるアブラハムです。
使徒7:2 ・・・わたしたちの父アブラハムがメソポタミアにいて、まだハランに住んでいなかったとき、栄光の神が現れ、
使徒7:3 『あなたの土地と親族を離れ、わたしが示す土地に行け』と言われました。
使徒7:4 それで、アブラハムはカルデア人の土地を出て、ハランに住みました。神はアブラハムを、彼の父が死んだ後、ハランから今あなたがたが住んでいる土地にお移しになられましたが、
ここでの重要なポイントは、アブラハムはカルデアのウルで、つまり外国で神の声を聞いたのです。彼のルーツは外国です。そこから今彼らが住んでいるパレスチナの土地に移住したのです。
次がヨセフです。
使徒7:9 この族長たちはヨセフをねたんで、エジプトへ売ってしまいました。しかし、神はヨセフを離れず、
使徒7:10 あらゆる苦難から助け出して、エジプト王ファラオのもとで恵みと知恵をお授けになりました。そしてファラオは、彼をエジプトと王の家全体とをつかさどる大臣に任命したのです。
神はエジプトに売り飛ばされたヨセフと共におられたのです。そしてヨセフはエジプトで活躍したのです。
三番目にステファノが語るのがモーセです。
使徒7:22 そして、モーセはエジプト人のあらゆる教育を受け、すばらしい話や行いをする者になりました。
使徒7:29 モーセはこの言葉を聞いて、逃げ出し、そして、ミディアン地方に身を寄せている間に、二人の男の子をもうけました。
使徒7:30 四十年たったとき、シナイ山に近い荒れ野において、柴の燃える炎の中で、天使がモーセの前に現れました。
使徒7:36 この人が、エジプトの地でも紅海でも、また、四十年の間、荒れ野でも、不思議な業としるしを行って人々を導き出しました。
モーセは、エジプトで育ち、シナイ山で神の声を聞いた。そして荒れ野を旅するイスラエルを導いたのです。
アブラハムも、ヨセフも、モーセも外国出身者でした。外国で神の声を聞き、外国で活躍したのです。
ステファノは、「神は世界の神なのだ。そして世界中で働く。世界中の人々を祝福し、用いる」と語るのです。
アメリカの神学校で教えてくれた教授は、学生に向かい、「君たちがどの国出身であっても、どの言葉を使う民族であってもかかわりなく、勧めたいことがある。それはワールド・クリスチャンになってほしい。」と語りました。
ステファノは、ワールド・クリスチャン、世界を視野に置くクリスチャンでした。そして世界的な視点から、イスラエルの指導者がどのように生きて来たかというメッセージを語りました。
私たちもまた、ワールド・クリスチャンとして生きてゆきたいと思います。